ART

刺激と培養によるエピジェネティックな変化について

Epigenetic changes by stimulation and culture

ARTにおいては培養環境や培養液の組成などがDNAの発現にエピジェネティクが関わる変化を引き起こし、それが胎盤や児の表現型に影響を与えるのではないかと考えられている。

ARTに伴う児の遺伝子の発現に関し理解が深まればそれに対する対応法も開発されそれよって出生児の長期的な健康状態の改善も図られるのではないかと思われる。

エピジェネティクに伴う変化は遺伝子型の変化を伴うことなく細胞や器官の表現型に変化をもたらすことである。すなわち遺伝子の発現の変化によるものである。調節遺伝子の発現の1つのメカニズムはメチル基がシトシンに結合することによって発現する。

また、ヒストンのメチル化やアセチル化によっても変化が起こる。DNAやクロマチンのこのような化学的な修飾は遺伝子の発現の尤度に変化を与えることになる。

ARTにおいて胚の表現型に変化が起こり、その結果、胎盤や児が形成され出産に至る。排卵誘発やIVF、胚培養、凍結保存などは胎盤や遺伝子の発現のプロフィールに変化をもたらす。一般に変化の背景にあるメカニズムはよくわかっていない。

しかし、エピジェネシスが関わる遺伝子の発現の修飾によっていろいろな表現型が引き起こされるものと考えられている。妊娠早期の母親における栄養状態なども児の健康に影響を与える。

IVFにおいては培養液の違いが遺伝子の発現のプロフィールに変化を引き起こし、その結果、出生体重にも差異をもたらすものと考えられている。

また、インキュベーター内の酸素濃度はヒトの胚における遺伝子の発現に影響をもたらすが、市販されている培養液はその組成に大きな違いがあり、胚が培養液の組成の違いに反応しエピジェネティクに関わる変化を引き起こすと考えられている。

しかし、IVFや胚培養におけるエピジェネシスが ARTで出産した児の長期にわたる健康状態にどのような影響を与えるかということに関してもわかっていない。もし何らかの介入法が確立されれば長期的な健康状態に及ぼす影響も改善できるのではないかと思われる。

A. Sunde1.

1Professor emeritus, Department of Clinical and Molecular Medicine- Faculty of Medicine- Norwegian University of Science and

Technology. Trondheim- Norway., Trondheim, Norway.

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