ART

全胚凍結戦略がARTにもたらすもの〜メリットと抱える問題点

全胚凍結にはいろいろなメリットがあり、調節卵巣刺激の開始時期を厳密に調整する必要もなくなるというメリットもある

緩慢凍結とvitrificationを比較した場合、vitrificationは妊娠率の向上をもたらすが、その背景には良好な胚の選択も影響している可能性がある。採卵の時期の決定に17mm以上の卵胞が3個というような基準を設けることなく、最終的な卵子の成熟を遅らせることもでき、採卵の時期を決定することが容易になるというメリットも考えられる。卵胞期の最後の時点におけるプロゲステロンレベルが1.5ng/ml超の場合にはネガティブな影響を与えると報告されているが。全胚凍結戦略を用いる場合にはこのような点に配慮する必要もない。また、全胚凍結を用いることによって調節卵巣刺激の開始時期を厳密に調整する必要もなくなる。場合によっては調節卵巣刺激を黄体期から開始することもでき、それによって臨床結果にも影響を与えないとする報告もある。

全胚凍結戦略を用いれば自然周期あるいは調整周期において凍結融解胚を移植することができる

全胚凍結戦略を用いれば自然周期あるいは調整周期において凍結融解胚を移植することができるが、GnRH down-regulationの使用の有無にかかわらず同様な有用性が得られると報告されている。自然周期がより患者にとって優しい治療法で、また費用の負担も少ないと考えられているが、調整周期の胚移植ではたとえ月経周期が不順であっても胚移植することができ、週末などの胚移植を回避することもできる。調整周期ではタイミングよく胚移植することができるという報告もある。最近、LHサージを回避するため、medroxyprogesterone acetateの経口投与が有効とする報告もある。どのような凍結融解胚を移植法が良いかという点に対してはまだ検討する余地がある。

 

新鮮胚移植と比べ凍結融解胚移植によって高い妊娠率が得られるという根拠が蓄積されてきているが、いくつかの問題点も指摘されている

新鮮胚移植と比べ凍結融解胚移植によって高い妊娠率が得られるという根拠が蓄積されてきている。しかし、対象者が卵巣の反応性が良好なものに限られているなどのバイアスもあり、すべての患者にこれが応用できるかどうかという点に関してはさらに検討してみる必要がある。一方、凍結融解胚移植においては単胎妊娠例においてもLGAの児の出産リスクは上昇するという報告もある。vitrificationを試みた場合においては必ずしもLGAの児の出産のリスクは上昇しないとする報告もある。LGAや巨大児出産は死産、新生児仮死、肩甲難産、低血糖などの産科的なネガティブな臨床結果と凍結融解胚移植との関係を大規模な研究でさらに確認してみる必要がある。

関連記事

  1. ART

    Day5対Day6の新鮮および凍結胚盤胞移植サイクルの結果:系統的レビューとメタ分析

    day5胚盤胞移植を試みることによってday6胚盤胞移植よりも新鮮胚…

  2. ART

    IVF患者の最適な刺激プロトコルを選択するための人工知能ベースのアルゴリズムの開発と検証

    AIを利用した予測モデルを作成したところ初回のIVFを受けた患者におい…

  3. ART

    なぜ、正倍数性の胚盤胞を移植しても継続妊娠に至らないのか考察した論文①

    卵子や胚を取り巻く環境には、加齢やライフスタイル、心理的ストレス、栄養…

  4. ART

    出生の累積確率を予測するための治療前カウンセリングツールについて

    卵巣予備能と年齢を用い生児出産の予測モデルを作成したところ、陽性予測値…

  5. ART

    IVFに対する子宮筋腫の影響:系統的レビューとメタ分析

    子宮腔に影響を与えない筋層内筋腫が存在している場合、漿膜下筋腫の有無に…

  6. ART

    IVFに用いられる胚培養液が、治療結果と新生児の出生体重に影響を及ぼすことを示した論文

    IVFに用いられる胚培養液は、治療結果と新生児の出生体重に影響を及ぼす…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

サイト情報をキャッチ

Push7でプッシュ通知を受け取る:



FeedlyでRSS購読をする:



>> プッシュ通知やRSSについてはこちらをご覧下さい

最近の記事

記事ランキング

アーカイブ

最近チェックした記事

    最近のコメント

      1. 食生活

        IVFにおいて、全粒穀物の摂取量と生児出産率に相関があることを示した論文
      2. ART

        形態による胚選択を伴う非ドナー卵体外受精の使用は、40〜43歳の患者にとって効率…
      3. ART

        予測モデルによって、TESEによる精子回収の可能性を高い精度で識別できることを示…
      4. ライフスタイル

        女性生殖器と金属の関係における考察の必要性について投げかけた論文
      5. 男性不妊

        過体重や肥満男性は、精液量や精液濃度、総精子数において少ない傾向があることを示し…
      PAGE TOP