卵子や胚を取り巻く環境には、加齢やライフスタイル、心理的ストレス、栄養素の補充、細胞のエネルギーレベル、内分泌やパラクリンにかかわる因子、外因性ゴナドトロピン、いろいろな薬剤、培養液、IVFのラボの状態また操作法などを含む多様な要因がかかわっており、それらが代謝に影響を及ぼしているのではないかと思われる。このような複雑な因子がなぜ正倍数性の胚盤胞を移植しても、継続妊娠に至らないのかということを説明する上で考えてみる必要があると思われる。
Introduction:Examining the many potential reasons why euploid blastocysts do not always result in viable pregnancies:part 1
David R.Meldrum
Fertil Steril.2016 Mar;105(3):545-547
【文献番号】r01600 (媒精、精子選別、胚培養、胚発育)
なぜ、正倍数性の胚を移植したにもかかわらず着床に至らなかったのかという疑問に答えることは難しい
臨床家として、われわれが遭遇する最も難しい問題の一つは、正倍数性の胚を移植したにもかかわらず着床に至らなかったカップルから発せられる「なぜ成功しなかったか」という疑問にどのように答えるかということである。最も端的な回答は「卵子は非常に大きな細胞で、その細胞質の影響も考えられ、核よりも重要な役割を演じている可能性がある」と説明することである。
細胞質の状態に問題があり完全な胚を生み出すことにはならないことも考えられる
細胞質の状態が、染色体の正常な分離を促す上で十分であるかもしれないが、それが完全な胚を生み出すことにはならないことも考えられる。胚発育の際に割球の分裂につれ割球は小さくなり、その中に含まれる構成成分の少なくなる。胚のゲノムは細胞質に存在する因子を十分に産み出すことができないことも考えられる。ミトコンドリアも胞胚腔が形成されるまでは複製されることはない。細胞質を成熟させ、胚の質を高めるにはどうすればよいのかということが重要な問題である。
卵子の質にネガティブに、またポジティブに作用するライフスタイルがかかわる因子についても考えてみる必要がある
本号に掲載されるレビューには、卵子の質にネガティブに、またポジティブに作用するライフスタイルがかかわる因子について述べられている。しかし、適切な効果を生み出すためにはどれほど長い期間、ライフスタイルの改善が必要なのかというのが問題である。卵子は3~6か月かけて成熟に至るが、卵子に影響を及ぼすいろいろな因子が存在する。比較的穏やかな化学療法を試みたとしても、卵巣が正常な状態に回復するまでには3~6か月も必要とするという報告もある。
喫煙や肥満のような因子が重度の酸化ストレスを引き起こしていることも考えられる
De Zieglerらは霜によって被害を受けたオリーブの木の枝も再び新しい枝を出し生き延びる例を例えとして挙げている。同様に、喫煙や肥満のような因子が重度の酸化ストレスを引き起こしている例においては、IVFの前に3~6か月にわたる摂生と規則的な運動を試みることが必要ではないかとも考えられる。数か月にもわたるストレスの多い生活が生殖機能に長期にわたるネガティブな影響をもたらす可能性も考えておく必要がある。IVFを受けた患者において身近な親族の死が、卵子や胚にネガティブな影響を与える可能性も指摘されている。
女性の加齢にともなうandropauseにDHEAの経口投与やテストステロンの経皮的投与が改善をもたらす可能性も指摘されている
女性の加齢に伴ってandrogenの減少、すなわちandropauseをみることがあるが、DHEAを経口投与することによってテストステロンのレベルをわずかに上昇させ、その状態を2~3か月以上維持することによってポジティブな影響をもたらすこともある。テストステロンを経皮的に投与することによってテストステロンレベルを上昇させ、その状態を3週間以上維持することによってよい効果が発揮されるとの報告もある。テストステロンは卵巣組織の反応性を向上させる作用の他に、顆粒膜細胞の増殖を促し、それが卵子の質を改善するのではないかと考えられている。
ミトコンドリアからのエネルギーの供給が染色体分離と細胞分裂に重要な影響をもたらすと考えられる
Bob CasperとCarlos Simonはミトコンドリアからのエネルギーの供給が染色体の分離と細胞分裂に重要な影響を与えると述べている。加齢マウスのモデルを用いて、ミトコンドリアのエネルギーの重要な役割を明らかにしている。加齢とともにミトコンドリアのエネルギー産生は低下するが、ミトコンドリアのコファクターであるCoQ10によってこの加齢の影響を回復させることができると述べている。しかし、残念なことに、女性に2か月にわたってCoQ10の補給を試みたが、それを勧めるほどの成果を得るに至っていない。さらに投与期間を延長し3~6か月もの長期投与を試みた場合には、良い影響が得られた可能性も考えられる。
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